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「この曲、なんだっけ」
「えー知らない」
「かなり古いヤツなんだけど。あー思い出せない」
通りすがりの学生たちが、眉を顰めながらも楽しそうに通り過ぎていく。
商店街にかかるのは懐メロばかりで、だから親の影響で知っていたりするのかも知れない。
ふと呼び止めて、曲名を伝えたくなる。それでも突然知らないおぱさんが話しかけては怪訝な顔ではぁ?と言われてしまう気がして、私はそのまま歩き続けた。
今でも、忘れられない。
あのぽたりぽたりと落ちた滴は、私の中で今でも不意によみがえる。
夕方の止みそうな雨
突然にどこかから香る優しい匂い
街中で流れる同じ名前の曲
キッチンのシンクに置きっぱなしのお皿に落ちる水滴
テレビの中に広がる広大な海のその色
私にあの花束を渡した人は、どうしてしまったのか知らない。誰かに聞くのも違う気がして、卒業式にいなかった理由も結局知らないままだ。
あれから何度も手にする機会はあったけれど、人生で初めて貰った花束は、あの薄い青。
あのときの風景とともに、私の中にある。
忘れないで、そうお願いされたから。今でも忘れていないよ。
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