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雨は嫌いだったはずなのに、傘の端から落ちる水滴がなぜか気になって、どこか愉快な気持ちのまま眺めていた。
強い雨ではない。霧雨に近いそれは、ゆっくりと集まってぽたり、ぽたり、音を立てて落ちていく。
……音?
水滴の行方を見れば、さっき手渡されたばかりの小さな花束。綺麗にラッピングされたそれが、水を弾く音源だった。
濡れてしまう、と頭の一部が冷静に考える。けれどこの音を止めてしまうのは惜しいと思う感情に抗えずに、むしろ傘の端に近付けるようにして私はまた水滴を見つめる。また一滴落ちて、ふわり、と優しく香った気がした。
衣替えはしたけれどまだ肌寒いこんな日に、雨の中にいるなんてどうかしている。さっさと帰らないとまたローファーの中まで濡らしてお母さんに怒られてしまう。
ぽたり、ぽたり、透明な滴が、薄い青を滲ませる。
どうして私にこの花を渡したのだろう。
どうして今だったのだろう。
どうして何も言わなかったのだろう。
いくつかの滴が、ぽたり、ぽたり。
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