信号機の俺と猫のアイツ。

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 正直、俺を中心にこの世界は成り立っていると思っている。  そう思う理由だってちゃんとある。  俺の赤と青は、目の前の奴らを自由自在に操れる。  見下ろす景色はいつだって気分が良い。  子供や大人、自転車やトラックまでもが俺の色を窺って行動する。  俺が青を示せば、一斉に動き出すし、俺が赤を示せば、一斉に動きを止める。    毎日毎日、その光景を見て悦に浸るのが俺の生きがい。  俺の思い通りに動くこいつらが、可笑しくてたまらない。  そんな毎日の繰り返しは実に楽しい。  だが、最近。  そんな俺の毎日を脅かす奴が現れた。  そいつは、子供や大人、自転車やトラックなんかと比べ物にならないほどちっこい。  だがその癖、俺の意のままにならない。    他の奴らは俺の色を窺うのに、コイツは、この猫の奴は、俺を見ようとしない。    そうして自分勝手に行動する。  俺が赤になっても止まらない、青になっても動かない、実に不愉快だ。  自由気ままに俺が見下ろしてることなんて意に介さず、前だけを見てる。  この世界は俺が中心だ。  その俺がないがしろにされるなんてこと、あって良い訳がない。  そう思う矢先にも、俺の見下ろす先でソイツは、俺を支える柱に体をこすりつけて「にゃ~」と鳴いている。  初めての誰かの接触は、まあ、存外悪くはなかったが……。  ソイツのぬくもりは温かく、俺にはないその柔らかさは少し憎らしいが、まあ、俺の言うことを聞かないコイツも案外可愛いとこがあるかもしれない。
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