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それから毎日、俺はアイツが来るのを待ちわびた。
アイツの瞳をまた見たいからだ。
だが、あれ以来、全くアイツは俺を見上げて来ない。
実に腹立たしい。
今日も今日とて、アイツは俺の色なんて全く見ない。
ただ、通り過ぎざまに自分の体を柱になでていく。
ただそれだけ。
今日も、アイツは俺を見ないか……と落胆する日が増えたように思う。
最初は、そんな奴の行動も。いじらしくて良いと思った。
俺の柱を撫でるコイツの体温も割りと気に入ってきている。
それでも俺は、たまにはお前のその瞳を、正面から受け止めてみたいとも思う。
奴の輝きはそれはそれで、俺とは違う美しさを持っている。
よし。今日は、伝えてみよう。
俺の想いを、アイツに向かって。
聞こえる訳がないのは分かっているが……。
いや、もしかしたら、聞こえるかもしれない。
この俺が、特別だと思った相手だ。聞こえるだろうきっと。
伝わらないと困る。
誰かに何か想いを伝えようと思うなんて初めてのこと。
とりあえず、アイツが来る前に練習をしよう。
「あ~……その、なんだ」
アイツに俺が言いたいこと。
「お前はもう少し俺の事を気に掛けるべきではないのか? 少し上を見れば俺がいる、俺の色を見てお前は行動を判断した方が良い。お前は危なっかしい、自覚しているのか? お前の身のこなしは毎日見て知っているが、それでも心が落ち着かないんだ。だから、俺の言う通りに」
ちょっと小言すぎるか? これでは嫌われてしまうかもしれない。
いや例え嫌われても、俺の威厳が伝わればいい。……いいのだが。
やはり、嫌われるか好かれるかなら、好かれる方が良い。
「その、なんだ……」
今からこんな緊張して、本番、アイツに伝えられるのだろうか?
「初めて、お前がその、初めてお前が俺を見上げた時のことを覚えているか? その綺麗な青、俺の色に劣らず良い色をしていた。誇っていいぞ? 俺の好きな輝きだ。あの時から、今も忘れられないほどにな。だから、その、またお前の瞳が見たいのだ」
ちょっと長いか…?
アイツが通るその瞬間にこんな多くは伝えきれないだろう。
ちょっと言葉を掛けて、アイツの興味を俺に向けさせてから、それからゆっくりじっくり今の想いを伝えよう。
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