2人が本棚に入れています
本棚に追加
その言葉は、何がいいだろうか……。
簡潔に奴の足を止められる言葉……。
そんなことを考える間に、その瞬間は来る。
アイツの姿が見える。
こちらに向かうその足、……やはり私の方は見ない、か。
言葉を掛けるなら今だろう。
「おい。そこの、猫止まれ、いや止まるんだ」
ぎこちなく紡いだ俺の言葉に、奴の耳がピクっと反応した気がした。
聞こえたか!?
だが、顔が上がらない。反応されたのは気のせいか?
いやきっと小さくて聞こえなかったのだろう。
「こっちだ!! お前の瞳が、その青が、忘れられないのだ!!」
今度こそ……。どうだ!?
その場に止まった奴は、ゆっくりと顔を上げる。
光るその青い瞳が、正面でまっすぐと俺を見ている。
嗚呼……っ、やはり、美しい色だ。
声が、届いた。間違いない。俺の声に反応した。
やはりアイツは特別な存在だ。
きっとアイツにとっても俺は特別な存在に違いない。
とても嬉しくなり、さらに言葉を続けようと、今までの想いを伝えようとした。
だが、そんな俺の想いを、今まで聞いたことがないほどの音に遮られた。
車のブレーキ音とクラクションが響く。
その瞬間に、奴の体が、宙を舞った。
ゆっくりと落ちていく奴の体は、その場から動かない。
あれだけ自由に動いていた体が、今は道路に横たわったままそのまま。
最初のコメントを投稿しよう!