信号機の俺と猫のアイツ。

6/8
前へ
/8ページ
次へ
 ――何が起こったのか、一瞬分からず、でもすぐに濁流の如く目の前の惨状が理解を促す。  アイツがひかれた。……轢かれた? 何故?    止まったからだ。道路の真ん中で。……どうして止まった?  ああ…そうだ、俺だ。俺がアイツを止めた。  その結果が、俺が、あいつを、……殺した。  自問自答が止むことなくループする。    周りが見えてなかった。アイツの事しか考えてなかった。  アイツの事を考えていた時、アイツに声を掛けた時、自分が何の色をしていたのか全く覚えてない。  意識が猫に囚われすぎて、だから、……。  俺が……、俺が、奴を、殺してしまった。  俺が、声を掛けなければ、「止まれ」なんて言わなければ、アイツが轢かれるなんてそんなこと……。  と、その時、 「え?」  思わず言葉が漏れた。  猫がピクッと動いたのだ。  ゆっくりと身体を持ち上げようとして、よろけて、でも懸命に立とうとしている。  生きてる……?  その事実に、心底ほっとする。生きてる、生きてるんだ。大丈夫だった。 「違っ、違うんだ!! 本当に、俺はこんなことになるなんて思っても無くて!!」  急いで言い訳の言葉を紡ぐ。  立とうとしては、プルプルと足が震え、一歩踏み出しては、崩れ落ちそうになる。  その姿に、ハッとする。同じ失敗はしない。  大丈夫だ。  俺が、俺がお前がちゃんとこっちに渡りきるまで、ちゃんと他の奴らを止めてやる。  俺が止めてやる。俺が全部止めてやるんだ。  俺の赤を見れば、皆止まる。俺はそれを知っている。  お前が目の前にいる限り、お前が渡りきるまで、俺は絶対に青になんかならない。  お前の青い瞳が俺を映してくれるまで、俺は青になんかなってやらない。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加