信号機の俺と猫のアイツ。

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   意識が真っ赤に塗りつぶされて、気が付いたら暗転していた。  それからどれくらい経ったのか。  それすら分からない。心にぽっかりと穴が開いたようだ。  俺の視界はいつの間にかクリアになっていた。  けたたましく鳴り響いていたクラクションの音も、いつの間にか聞こえなくなっていた。  クリアになった視界には、……アイツはいなかった。  アイツだけが、いない。  最期にアイツを見た道路に、赤黒い血の色だけが残っている。  それを見て、俺の機体に痛みが走る。  どこか故障しているのだろうか。  表面は何ともない。中の部品も壊れてる気配はない。  でも、何故か、機体のどこかが痛い。  この原因はなんだろう。  クリアな光景では、何事も無かったかのように、人間は俺の色を気にして、車だって俺に合わせて止まっている。  変わらないいつもの風景。  そこでふと、俺の意志と関係なく勝手に自分の色が変わっていることに気づく。  俺の意識がない間に、俺の身体に何かあったのだろうか。    それに気が付いてしまうと、突然クリアになったこの光景も、強制的に見せられてるような気がしてきた。 いつもの日常。  俺は一定の時間で赤と青を映し出す。  自分の身体が自分のものじゃなくなったように思う。  だが、いつもの光景でも前と違う所があった。    世界が、全て色褪せてしまった。  灰色がかった風景に何も心が動かされない。  ひどくつまらなくなった。アイツがいなくなったというだけで。  唯一、あいつがいた場所の血の赤だけ認識できる。  でも俺は、そんな色より、あの青い瞳がもう一度見たかった。  あの温もりも感じたかった。  この世界は、ひどく色味のない無機質なものになってしまった。  目の前の無機質な光景なんて、もう何の価値も見出せない。  それに、どうせ俺の身体はもう俺の意志を必要としていない。    それならアイツがいた世界に思いを馳せていよう。  今も、お前の温もりが忘れられない。身体がそれを覚えているんだ。  今も、お前のあの目が忘れられない。身体に焼き付いて離れないんだ      ――この感情は一体何なんだろうな。
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