1

6/6
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 家に着くと僕は疲労から玄関で倒れこむように寝転がる。  時刻は深夜4時。  寝てしまいたい。そう思ったが、そこで思い出す。たしか明日――いや、今日は一限目から講義があったはずだ。  ここで寝てしまえば確実に寝過ごす。それはたしかだ。  講義をサボる――そんな選択肢は僕の中に存在していなかった。  起きていなくちゃいけない。だが今にも寝てしまいそう。  ――そうだ、シャワーでも浴びよう。  シャワーを浴びて目を覚まそう。僕はお風呂場へ向かった。  しんどい体を動かし、お風呂場の前で服を脱ぐ。  着替えもバスタオルも用意していないが、一刻も早くシャワーを浴びたい。その思いで僕はお風呂場の扉を開く。  開いてすぐ、僕は違和感を感じた。  まだ何もしていない。なのにお風呂場には湯気が立ち込めていた。  その原因はすぐに分かった。  お風呂に湯が張られていたのだ。  もちろんだが、僕は湯を張ったりしていない。そしてこの家には他に誰も住んでいない。  普通ならこの状況を怖いと感じるのかもしれない。  だがこの日の僕は疲れからなのだろうか、それともなにかを感じ取ったのか。僕は体も洗わず、そのまま湯に足を入れた。 「いつも言ってますよね。体はちゃんと洗いましょうって」  ――声。  懐かしい声。 「でも、今日は許してあげます。疲れてるみたいですから」  ずっと聞きたかった声。 「では、――――お帰り」  ずっと言っていなかった言葉。  なのに僕の口からその言葉はスッと出てきた。 「――うん。ただいま」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!