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 何故僕がそこまで家のお風呂だけを愛しているのか。  感覚や雰囲気の話ではない。たしかに家のお風呂でないといけない理由があった。  僕はお風呂に入るとき、気を付けていることがある。  シャンプーボディーソープトリートメント洗顔。これらをしっかりすること。中途半端に洗うとこはしない。時間をかけてしっかりと洗う。  なんでそこまでするのか。  何故ならちゃんと洗わないと――――彼女に怒られてしまうから。 「ちゃんと洗ったの?」 「洗ったよ。全身ピカピカ」 「じゃあ入っていいですよ。――――お帰り」 「うん、ただいま」  彼女はそこにいた。  ――いや、正確にはいない。姿は見えないのである。  いつからだろう。もしかしたら僕が生まれた時からずっといたのかもしれない。  彼女は自称お風呂の精霊だ。  お風呂でしか話すことが出来ず、お風呂で会話をしている最中も、その姿を眼に映すことはできない。  彼女は見えないが、たしかにそこにいて僕と毎日話をしてくれていた。  そう、これが僕がお風呂を好きな理由。
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