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家に着くと僕は疲労から玄関で倒れこむように寝転がる。
時刻は深夜4時。
寝てしまいたい。そう思ったが、そこで思い出す。たしか明日――いや、今日は一限目から講義があったはずだ。
ここで寝てしまえば確実に寝過ごす。それはたしかだ。
講義をサボる――そんな選択肢は僕の中に存在していなかった。
起きていなくちゃいけない。だが今にも寝てしまいそう。
――そうだ、シャワーでも浴びよう。
シャワーを浴びて目を覚まそう。僕はお風呂場へ向かった。
しんどい体を動かし、お風呂場の前で服を脱ぐ。
着替えもバスタオルも用意していないが、一刻も早くシャワーを浴びたい。その思いで僕はお風呂場の扉を開く。
開いてすぐ、僕は違和感を感じた。
まだ何もしていない。なのにお風呂場には湯気が立ち込めていた。
その原因はすぐに分かった。
お風呂に湯が張られていたのだ。
もちろんだが、僕は湯を張ったりしていない。そしてこの家には他に誰も住んでいない。
普通ならこの状況を怖いと感じるのかもしれない。
だがこの日の僕は疲れからなのだろうか、それともなにかを感じ取ったのか。僕は体も洗わず、そのまま湯に足を入れた。
「いつも言ってますよね。体はちゃんと洗いましょうって」
――声。
懐かしい声。
「でも、今日は許してあげます。疲れてるみたいですから」
ずっと聞きたかった声。
「では、――――お帰り」
ずっと言っていなかった言葉。
なのに僕の口からその言葉はスッと出てきた。
「――うん。ただいま」
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