お風呂の窓

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久しぶりのお風呂に浸かりながら、私は考え事をしていた。 そういえばいつからか、お風呂の時間は考え事をする時間になり、 ほっと息をついてのんびりする時間はなくなっていた。 お風呂にゆっくり浸かる時間があったら、宿題や趣味に時間が割ける。 そう思った中学生くらいの頃からシャワー派になり、お風呂には浸かることがなくなっていた。 「ピー」 百円均一で買った、ゴムのアヒルの声がお風呂場に響く。 袋詰めされた6羽のアヒルが可愛くて思わず買ってしまったのだった。 「なんだかなあ。」 小さく呟いた言葉すら、お風呂場では響く。 どうも最近は気が滅入りがちで、落ち着かない。 2羽をアヒルを右手と左手に持って、お腹を押しまくる。 ピーピーと高い声がお風呂場に響き渡る。 「うるさいな。」 今度は深く沈めて放して、浮いてきたのを更にまた沈めてみる。 そういえば、小学生以前は髪の色の変わる人形とお風呂の時間でもないのにお風呂に入ったりしたものだ。 その人形の前はお風呂用金魚すくいを持って入っていたような。 そう、お風呂場には窓があって。 水面から目線を上げてみると、窓があった。 以前と同じような、青空と木々が見えて、車が走って巻き上げた土の匂いが入ってくる窓。 ボディーソープの匂いと、水の優しい匂い。 温かい、お風呂の匂い。 前は、こういう時間が好きだった気がする。 お気に入りのおもちゃに、差し込む陽の光に、温かいお風呂の匂い。 お風呂を上がったら、お母さんがアイスを食べようと誘ってくるのだ。 「懐かしいなあ。」 お風呂を上がったら、アイスを食べよう。 もう一度、水面に浮かんだアヒルに目をやってから目を上げると そこにはもう窓がなかった。
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