朧月の夜に

更地

　祖父母の家があった場所へ行こうと思ったのは、患っていた眼が悪化したため再就職したばかりの企業を辞める事にしたからだ。
　祖父母は今から二十年以上前に亡くなっている。その後、その家には伯父が家族を連れ戻って来たが、三年前にその伯父も亡くなり、伯母は娘たちが住む東京に引っ越してしまった。その時、家も取り壊し、現在は更地になっている。
　自宅から近かった事もあり、私は小学生まではよく預けられていたが、伯父の一家が住むようになってからは以前のように訪れる事はなくなっていた。
　私は昨年、千葉県から戻って来て、初めて更地になった祖父母の家の跡を見た。この場所に何年も来ていなかった。それにも関わらず、一目見た途端にこの場所に詰まっていた思い出が溢れ出した。
　住宅地にポッカリ空いたその空間は、まるで私の心その物だった。