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光の中で
西陽の差し込む放課後の教室は、誰かが閉め忘れたのだろうか窓が開いていて、白いカーテンが揺れている。
新学期の不安定さも落ち着き、高校生活最後の夏が始まろうとしていた。
初夏の風がかすかに一哉の肌を撫でる。
梅雨の名残り、雨と若葉の匂いを含んだ空気はひんやりしている。
教室に一歩入った一哉は彼の存在に気づき、息を飲んで立ち尽くした。
その光景は、光の中に溶け込むポートレイトのようだった。
窓側後ろから2番目の自分の席に颯汰が座っている。
少し長めの前髪が西陽に透けてオレンジ色に染まり、静かに風をまとう。
形のいい耳にはイヤホンが掛けられ、曲を口ずさみ微かに動く唇。
どこか憂いを帯びて伏せられた目は、机の上に置かれた一哉のカバンを見つめている。
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