4、願うのは君の幸せ

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「いつもバスなのに、どうしたの?」 「今月から電車にしたんだ」  明貴がバス通学だったのは、南高の制服を着た自分が一緒だと夏海が落ちこむかもしれないと、気を使ったからだ。そのことは澪しか知らない。  この春、澪は明貴に「もう夏海は大丈夫だから一緒に電車通学しよう」とメッセージを送った。  このままだと、きっと彼は卒業するまでバス通学だ。そんなむくわれない気遣いが、かわいそうで黙っていられなかった。同じ高校に行けないなら、せめて同じ電車で通わせてあげたいと思ったのだ。 「ねえ、澪」  夏海につられて明貴が視線を動かす。やっと存在に気がついたかのように澪を見る。 「明日から三人で電車乗っていこ」  屈託ない笑顔の夏海と明貴。 「うん」  澪はにっこり笑ってうなずいた。  明貴は自分が澪に頼んだことの残酷さを知らない。  今も彼の心には夏海と一緒に通学できるうれしさしかなくて、そこに澪のことを思いやる余地はなさそうだ。    澪は心の奥の箱に、泣きそうな想いをしまい続けてきた。消えてなくなればいいと思っているのに、今もそれは箱の中で暴れている。  明貴が夏海への想いを捨てない限り、澪のこの想いも消えないのかもしれない。  今度は私がバス通学かな──澪は楽しそうな二人にさりげなく背を向け、そっと目じりの涙をぬぐった。 (おわり)
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