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ざあん、ざあん、と波の音を聞いているうちにわたしは眠くなり、満天の――不思議なことに、ねえさまと一緒に過ごした記憶には、雨の日はないのだった――星空の下で、いつの間にかうとうとするのだ。
「カマドの因縁は、いつか切れる。だからカマドは幸せになる」
怖がることはないの、あなたは不幸にはならない……。
子守歌のようなねえさまの囁きは、わたしの未来の予言。
華奢なねえさまの背中に背負われて家に戻る間にすっかり寝てしまい、気が付けば朝になる。
長くて孤独な怖い夜はいくつもあったけれど、その度にねえさまが朝までわたしを導いてくれたのだった。
あの、豊かな黒い髪の毛。
ねえさまは髪を結い上げながった。
白い着物をまとい、髪を解き流した姿でいつも過ごしていたけれど、それが普通とは違う事に気づいたのは、ずいぶん大きくなってからだ。
女は髪を結い、動きやすい姿で日中を過ごすものだけど、ねえさまは「まるで幽霊」みたいなのだった。
貧乏ではあっても、一応は士族であるわたしのうちと、ただの平民であるねえさまが親しく近所づきあいできた理由。
それは、ねえさまがユタと呼ばれる人だったから。
ねえさまの能力がどういうものなのか、わたしは実際に見たことがない。
ただ、ねえさまの住む小屋には、時折見知らぬ人が訪れた。
たいてい立派な身なりの人で、士族、それも上の位の人々に違いがないのだった。
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