9人が本棚に入れています
本棚に追加
だけど二人を見下ろすがじゅまるは黒々と枝を伸ばして葉を茂らせていて、わたしはその夜も、幹に巻き付いて降りてくる赤い目の蛇を見たのだった。
ざざん――ざざん――琉球と大和を隔てる海は遙か。
どこまでも透き通る水は空の青をそのままに吸い取り、珊瑚礁を際立立たせる。
落ちぶれてゆくとうさま。
もともとうちは貧しい士族、その貧しさ故にかあさまは病で亡くなったという。
(かあさま、かあさま、綺麗な人だったかあさま)
わたしは母をみたことがない。
綺麗な人だと聞くだけだ。
だからわたしは、ねえさまの姿をそのままかあさまのもののように感じていた。
日に焼けることを知らない真っ白な肌、まるで幽霊みたいな歩き方、夢か幻をみるような黒いまなざし。
時折ねえさまは、わたしをなんとも言えないまなざしで見るのだった。
悲し気に、愛おし気に、ふっと振り返るとそんな不思議な目でわたしを見ているのだった。
ねえさまは、予知していたのかもしれない。
15歳の時、ねえさまが按司の兵に捉えられ、磔にされた。
その時、空は曇っていた。ちょうど夏ぐれに差し掛かる頃だったから。
ぽつぽつと雨が降りかかる中、ねえさまは後ろ手に縛られ、裸足で家を出て行った。
振り向くねえさまの目を、わたしは正面から受けた。
最初のコメントを投稿しよう!