綺麗なねえさま

6/7
前へ
/7ページ
次へ
 ねえさまは表情なく頷き、その瞬間、胸に凄まじい痛みが走ったが、わたしは構わずねえさまを見つめ続けていた。  わたしはそれを、とうさまが亡くなってから実行した。  按司様の妾であるねえさまが、実は姦通していたことを、人伝いに按司様の耳に入れたのである。    琉球の海はどこまでも澄み渡り、空は遙かだ。  夏ぐれの雨は島の命の糧、雨季が去り、夏が来る頃には全ての樹木は日差しを歓び、生き物たちは生を謳歌するだろう。  わたしは、ねえさまを殺した。    そして雨季があけたら、とうさまの49日が済むから、わたしはいよいよ輿入れをする。  按司様の奥様が孤児になったわたしをあわれがって、輿入れ先を見つけてくれたのだった。  夏が近づくにつれ、晴れ間から覗く日差しが徐々に強くなる。  わたしは寝間着を干し、その寝間着の白が青い空に映えるのを眩しく見た。  悪縁が切れるように、黒い雲が流れてゆき、そうして一点の陰りもない眩しい夏が来るのだ。  「カマド、あなたは幸せになる……」  わたしは目を閉じる。  黒い豊かな髪の毛が、さらりと鼻先を踊るような気がした。  不思議な香りが漂い、そこにねえさまが来ていることをわたしは知る。  どうしても許せなかったの、ごめんなさい、とわたしは心の中で何度も謝る。     
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加