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ねえさまは表情なく頷き、その瞬間、胸に凄まじい痛みが走ったが、わたしは構わずねえさまを見つめ続けていた。
わたしはそれを、とうさまが亡くなってから実行した。
按司様の妾であるねえさまが、実は姦通していたことを、人伝いに按司様の耳に入れたのである。
琉球の海はどこまでも澄み渡り、空は遙かだ。
夏ぐれの雨は島の命の糧、雨季が去り、夏が来る頃には全ての樹木は日差しを歓び、生き物たちは生を謳歌するだろう。
わたしは、ねえさまを殺した。
そして雨季があけたら、とうさまの49日が済むから、わたしはいよいよ輿入れをする。
按司様の奥様が孤児になったわたしをあわれがって、輿入れ先を見つけてくれたのだった。
夏が近づくにつれ、晴れ間から覗く日差しが徐々に強くなる。
わたしは寝間着を干し、その寝間着の白が青い空に映えるのを眩しく見た。
悪縁が切れるように、黒い雲が流れてゆき、そうして一点の陰りもない眩しい夏が来るのだ。
「カマド、あなたは幸せになる……」
わたしは目を閉じる。
黒い豊かな髪の毛が、さらりと鼻先を踊るような気がした。
不思議な香りが漂い、そこにねえさまが来ていることをわたしは知る。
どうしても許せなかったの、ごめんなさい、とわたしは心の中で何度も謝る。
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