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胡蝶
それはとても月の綺麗な夜だった。胡蝶はぼんやりと月を見上げている。その様子がたいそう危うくて、あさきはきゅっと自らの着物の裾を握り締めた。
あの後、夕霧は満足そうに笑みを浮かべながら命を落とした。自殺だった。どうやら最初からそのつもりだったらしい。
そして数日後、その話を聞いた寅蔵が妓楼にやって来た。妓楼の前で怒鳴り散らしたため番頭に抑えつけられ、吉原の外へ。死んだと風の噂で聞いた。きっと、それほどまで夕霧に惚れ込んでいたからこそ、胡蝶を傷つけたのだろう。
「胡蝶姐さま……」
あさきが声をかけても、胡蝶は返事をしない。ずっとずっとそうだった。何をしても反応をしない。ご飯を取ることもせず、みるみるうちに痩せていった。
あさきは朝霧を知らない。だけど清花曰く、とても美しい女性で、身請けを希望する男性が後を絶たなかったとか。
けれどもある日、彼女に病が判明した。もう客は取れない。そう判断した楼主が、ある男に朝霧を身請けさせることを決めた。病のことは隠して。
そして身請けされた後に病のことが相手に知られ、用済みとばかりに……否、無駄なことをしてしまった憂さ晴らしとして殴り殺されたのだった。
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