召喚の儀toパイモン

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 悪魔を、本当に召喚してしまった。  有吉千代子は、白のローブの裾を自ら踏み、無様にひっくり返りながら打ち震えた。臀部に衝撃が走るが、恐怖の方が勝った。痛みはない。ただ、心臓が痙攣したように強く鳴っていて今にも死んでしまいそうだ。  これから、どうすればいい?  千代子は恐怖で胃が裏返りそうになるのを必死に堪えながら、夜の空から降り現れた悪魔を観察する。枯れ草の散らばったアスファルトに、人間の男の姿をしたモノが倒れていた。体を形成したばかりで直ぐには起きられないのかもしれない。呻きのような声をあげながら、あらぬ方向に打ち出していた四肢をもぞもぞと動かしている。かなり気持ちが悪い。  落ち着け。これが悪魔なのは見ての通りだ。間違いなく、私が呼び出したモノだ。  だとしたら目の前に這い蹲っている鬼物が起き上がる前に、自分は動き出さなければならない。悪魔を呼びだそうとした主人は他の誰でもなく、千代子なのだから。  しかし、腰が抜けていて直ぐには立ち上がれそうになかった。起き上がろうとしても上手く力が入らない。間違って魔法円を消さないように身動ぎするので精一杯だ。生温い風に何度も体を攫われそうになる。  そうこうしているうち、倒れていた悪魔は力を取り戻し、悠々と立ち上がった。  悪の化身は、体の凝りをほぐすように、また具合を確かめるように何度か首を捻ってから、漸く顔を上げた。何処かで犬が吠え立てているのが薄雲の張った空を伝ってくる。  その顔は正しく、パイモンのそれだった。  悪魔の書であるレメゲトンの一節によると、ソロモンが使役した九番目の悪魔は、女性の顔をした男性の姿を取り、ひとこぶラクダに乗っているらしい。しかも王冠を被っている。
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