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はくしゅん、と恐ろしくステレオタイプなくしゃみの音で目が覚めた。我ながら器用な方だとは常々思ってはいたけれど、自分のくしゃみの音で目覚めたのは初めてだ。
「おー起きた」
寝起きに聞くはずのない他人の声に驚いて、閉じていた目をぱちりと開いた。
開いた目線の先にあるのは薄いピンクのちらちら。手に触れる冷たいものは、言い訳程度に敷かれたブルーシート。
自分のいる場所が部屋の温かいベッドからは程遠い、ごつごつとした地面であることを思い出した。
「あー……すんません、寝ちゃいました」
「先輩放っといて寝るのすごいよね」
「……寝不足で」
「これから花見だもんなぁ、少し寝ておきたいよねぇ」
胡座をかいて、どこかのんびりとした口調で返してくるのは確かに先輩で、でもたかだか数カ月の差で中途入社している我々は他の人から見れば同期みたいなものだ。
この人と共に花見の場所取りを命じられたのは何時間前だっただろうか。
やりかけの仕事も、相手のある打ち合わせも、全てこのくだらない風習のために明日に持ち越された。もちろん誰かが手伝ってくれる訳でもないから、単に明日の自分が更に忙しくなることが確定している。こんなの新人の仕事だろうに。そんな風に思ってから、今年の新人が女子二人のみであったことを思い出した。さすがに女性にはキツいだろう。春とはいえ、ちょっと日陰になってしまえば随分と冷える。
それでもせめて女子と一緒の場所取りならもう少しテンションも上がりそうなものなのに、そんなことを思いながら目の前の男を見た。女子評は、優しい森のくまさんタイプ、だ。そこそこ当たっているように思う。くまさんは、手元にあるフリーペーパーに目を落としていた。
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