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明日は絶対に忙しくなるから、今日はさっさと切り上げたい。ああでも、どうせ飲まされるんだよなぁ。
そんなことを思っていることが見透かされていたのか、思い出したようにくまさんは突然小さなドリンクを差し出してきた。
「これ、よく効くよ。あんま悪酔いしない。あとさ、先に何か食べておいた方が酔いが回らないから、よかったらこれも」
ドリンクを受け取った手に、更に小さな箱が重ねられる。
「……なんすかこれ」
「桜餅。来る途中で売ってて」
「……くまさんの分は」
「起きるの待ってようと思ったんだけど、お腹空いたから先食べちゃった」
えへへ、とでも言いそうな顔で笑う。ああ、そうそう、こういう奴が部署内で一番の美人とかを掻っ攫っていくんだよなぁ。そんなことを思って、それでも手の中にある物に悪い気がしなくて、いつの間にかしばらくぶりに、自分の口角が上がっていることに気付いた。
「いただきます。あ、金払うよ」
「だから先輩だってば」
「ほんの数カ月じゃん」
「ええぇ、先輩面したいのに……」
見上げれば、五分咲きの桜。手元には、同じ色の甘味。
もしかしたら、花見なんてのも悪いものじゃないのかもしれない。
あ、そうそう、隈さんっていうのは彼の本名。
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