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「じゃが、これから一人で本当に大丈夫かいの?」
そんな、これまでには見せたことのなかった明るい表情を浮かべるメルウトに、ジェフティメスは不意に真面目な顔になって尋ねる。
「はい。今回のことでよくわかりました。一度、〝セクメトの女主人〟となったからには、その運命からはけして逃れることができないと……」
老人の問いに、メルウトも真剣な眼差しでジェフティメスを見つめ返して答える。
「ですが、たとえ逃れられない運命であっても、それを自分の手で切り開いてゆくことはできます。わたしはセクメトとともに生きていきます。そのための道を、しばらく一人で旅をして見つけたいと思うんです」
「うむ……合格じゃ。どうやら何かを掴んだようじゃの。このバカ弟子などよりもよっぽど優秀じゃわい。どうじゃろ? こいつは破門にするから、やっぱり、わしの弟子になってはくれんかいの?」
確固たる決意をその目に宿し、そう力強く答えるメルウトに、とても満足げな様子でジェフティメスは頷くと、となりのチャラチャラとした軽い男を嫌そうな目つきで見つめて言う。
「そうそう。俺みたいなバカ弟子はとっとと破門にして……って、そりゃひどいっすよ、師匠ぉっ!」
それにウベンは一人乗りボケツッコミを入れると、いたく情けない顔で師の言い様に文句をつける。
「仕方ないじゃろう。それが自然の秩序。正義に則った判断というものじゃ」
「ああ! そこまで言うんですか! だったらこっちだってねえ!」
「んん? こっちだって、なんだと言うんじゃ?」
「へえ~言っちゃってもいいんすか!? 知りませんよ? どうなっても。んじゃあ、言わせてもらいますけどね…」
いつものように、そんな寸劇を演じる彼らの姿を見ていると、メルウトの瞳からは思わず涙が溢れてきそうになる。
「……それじゃ、わたし、そろそろ行きます! ジェフティメス先生、ウベンさん、さようなら。お二人のことはけして忘れません!」
このままでは泣いてしまいそうなので、メルウトはくるりと踵を返すと、パピルスを束ねて作った小舟へと急いで飛び乗る。
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