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私は所在無く外に出た。
引越したばかりで住んでいる周辺を知りたいというのもあったし、何より他にすることがなかったからだ。
「…綺麗」
川辺まで出ると、満開の桜がひらひらと水面に花色の水玉を作っている。
そして、木の根元にひとり、詰襟を着た少年が座っていた。
「こんにちは」
「…誰」
口振りは素っ気ないが、やわらかい声だ。
「私、あんたの学校に転入するんです。制服を着ていたので」
「……そう」
「私は二年になる凛香といいます。あんたは?」
「…俺も二年。萩だ」
「……青春出来るといい、ですよね」
つまらないことしか言えない自分に耐えかねて、私は彼の隣に腰掛けた。
彼は流れる花を睨むように見ながら、低く呟いた。
「…青春なんて、俺には憎らしい」
「憎らしい?どうしてですか」
「…」
彼は答えず、ただ膝のキャンパスに鉛筆を走らせていた。私は長い前髪の隙間から覗く細い瞳を見つめていた。
真っ黒に澄んだ、綺麗な目だと思った。
そして、その目には世界がどう映っているのか、漠然と興味を持ったのだ。
「また、来てもいいですか?」
「…好きにしたら」
ふふ、と私が口角を上げると彼は目を逸らした。
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