二人の英雄

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 少年が目を覚ますと、そこは暗い部屋だった。  体を起こし、閉ざされた鎧戸に目を向ける。隙間から光が差し込まない。まだ日が昇ってはいないのだ。 「夢?……」  だが、少年の顔に安堵(あんど)の表情は見られない。 「また、あのときの夢だ……」  (むし)ろ、苦々しく思う。  少年は、その首に提げ、片時も離さない護符を手に乗せ、静かに見つめる。 「(父さん……)」  今年、十三なった少年にとって、先刻の夢は全て、二年前に体験した[現実]であった。ジマリの街で起きた惨劇の生存者は、少年だけだった。気を失った少年を誰かが地下室に隠したのだ。  少年が今いる場所は、宿屋でもなければ商家でもない。紛れもなく、軍隊の施設である。  通りがかりの隊商に保護され、一年ほど放浪した後、少年はこの地に留まった。父をはじめとする、[龍]に殺された者たちの仇を取るため……  そのための[力]を得るために……  本来、軍隊に見ず知らずの――市民権を持たない上に成人を迎えていない少年を入隊させるなどあり得ない。門前払いならまだ良い方、場合によっては間者と疑われて投獄される危険性もある。  ここで、父の名声が役に立った。     
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