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父バドがかつて鉄甲騎技師として広く知られた一廉の人物であったことが幸いし、守備隊大隊長の判断で、見習いとして特別に雇用されることになったのだ。実際にはそんな簡単に決まったわけではないが、ともかく入隊を許されたのだ。
少年の父は、死して尚、息子を助けたことになるのだろうか。
この〈ウーゴ砦〉に雇われ、機関士見習いとして訓練に励んでから一年ほどが過ぎた今でも、時々、あの日の夢を見る。
殺戮の光景が今尚、鮮明に蘇るのだ。
だが、襲ってきた者たちの姿は、何故か、全てが黒く染まっている。
[影]と形容したのも、このためである。
街を滅ぼした[影]が、本当はどんな姿をしているのか、あるいは襲ってきた脅威が本当に[龍]だったのか、少年の記憶が思い出すことを拒んでいるためか、鮮明に思い出すことは出来ない。いや、思い出せないのは、今のところ幸いと呼べるかも知れない。少なくとも、それによって恐怖を軽減させていられるのだから。
少年は壁に埋め込まれた小部屋、と云うより寧ろ戸棚のそれに近い寝台からゆっくりと体を起こし、這い出る。そこは中部屋で、西方式の二段寝具が二つ並び、それぞれに人――先輩達が眠っている。
――もうすぐ日の出だ。日が昇れば、すぐに動かなければならない。
そう思った途端、起床ラッパが鳴り響いた。
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