二人の英雄

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 直後、寝台の男達が一斉に飛び起き、衣類掛けに掛けてある作業衣(さむえ)のような前袷(まえあわせ)の装束と、革で出来た防具を手慣れた感じで着込んでいく。彼等よりも早く起きたはずの少年は、その一連の動きに圧倒されつつも、自分も、先輩とは異なる前袷の作務衣と、包袋(ほうたい)がぶら下がる腰帯を締める。  腰帯の尾錠飾(びじょうかざ)りが、少年にとって唯一の、軍属としての証であった。  少年は夢のことを一時忘れ、先輩達の後を必死に追いかける。それは、集合に向かう背中を指すと同時に、技術、姿勢、心構えなど全ての面に於いてでもある。  少年は、彼等の後ろ姿から、全てを学ばねばならないのだ。  それは、いつか[力]を得て、父の敵を討つためでもあり、あの夢で起きた出来事を繰り返さないためでもある。  兵舎の廊下を走り、蛇口から流れ出す冷たい水道水でさっと顔を洗い、短く切りそろえた、茶色がかった黒髪を軽く整える。  そのとき、少年は板鏡に写る自分の顔を見た。  ――僕は、自分の目的を見失っていないだろうか……  砦に来たばかりの頃、その顔はあどけなさを失っていた。(まなじり)は鋭くつり上がり、口元は常に緊張のためか、きつく閉じられたものだ。だが今は、少しではあるが少年らしさを取り戻し、砦の人たち、新たな友人達と談笑することさえある  ここのところ激務が続き、疲れが顔に表われているものの、以前の緊張感を失いつつある自分の顔…… 「ダメだ……目的を見失っちゃ、いけない!」     
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