騎馬と銃弾

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 同地点―― 「敵騎馬隊、我が方に向けて進軍を開始!」  その報告を受けたゼットスは、 「そんな奴らさん、鉄甲騎で踏みつぶしてやれ!」  と、スパルティータの上から怒鳴り立てるが、それをドルトフが制止する 「命令するのは、吾輩である!……装甲騎馬は、前進して敵騎馬兵を迎え撃ち、歩兵はその後方を支援するのである?」 「なんだそりゃ、わざわざ敵さんの戦いに合わせてやるのかよ!?」  ゼットスの不満に、ドルトフは当然、と言った声で答える。 「……鶏を屠るのに牛刀を持ち出す必要はないのである」 「(やべえ……こいつ、典型的な駄目将軍だ……)」  ゼットスは、この時点でドルトフを見限る事を考え始めた。  どちらにせよ、何処(どこ)かで裏切るつもりではあったのだが。  だが、ドルトフの心境は違っていた。  先ほどはゼットスの手前、悪ぶるような言い回しを見せたが、本当のところ、考え方はウーゴ側の騎兵隊長と同じであった。特に、騎士階級である装甲騎馬隊は自尊心が人一倍高く、加えて、鉄甲騎への対抗心と嫉妬心が強い。ここで彼等の出番を奪うことは、軍団内に不和を誘発し、全体の士気に悪影響を与えてしまう事になる。  実の所、騎兵隊長の想いやドルトフの考えとはうらはらに、また、シディカの考えている以上にこの時代以降、陸戦に於ける騎兵の役割が変化しつつあった。  事実、一部西方の大国やグランバキナなどでは陸戦の花形を、普及が進んだ鉄甲騎に譲り、騎兵は機動力を活かした電撃戦を専門とした部隊への転換が進められている。  それとて車両の発展などにより、何時かは、彼等騎兵が(さげす)んでいる歩兵達に取って代わられることになるのだが。  しかし、小規模な戦闘しか経験のないウーゴ騎兵隊、そして、半ば儀仗兵(ぎじょうへい)と化しているドルトフの装甲騎士はその事を知る由もない。また、知ったとしても簡単には認めないだろう。  下知を受けたドルトフ自慢の装甲騎士は、騎馬の前面を含めた全身を鎧う装甲に身を委ね、馬上槍を突き出し、目の前の敵に向けて突撃を敢行する。
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