空回りの評価試験

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 きわめて(まれ)な現象ではあるが、操縦士は鉄甲騎を操縦している最中に、まるで機体と[同化]している感覚に陥ることがある。前回、イバンがガイシュと一騎打ちの中でバイソールを操縦しているときに感じたのがそれである。  〈共鳴〉と呼ばれるその現象は、長い間、鉄甲騎技術に於ける謎のひとつとされてきたが、近年の研究により、その原因が魂魄回路にあるのではないかと考えられるようになった。  魂魄回路は、鉄甲騎や飛空船など一部の機械に使用されている制御演算装置であるが、その部品の殆どは〈前文明〉の発掘品を使用したものであり、組み立て方法から使用法までのすべてが、掘り出された機械巨人の現物を元に探り出したものである。  発生のタイミングは戦闘時に多く、特に[勝利への執念]や、[生死に関わる]時など、強烈な想いを込めた場合に起こりうる。  最初に述べたとおり、この現象の発生は非常に希であり、操縦者の意志の強さ、操縦技量、魂魄回路の調子など、発生の要因には不確定要素が多い。  また、この現象を逆用して[操縦士の意志のみで動く鉄甲騎]の開発が行われたこともあった。操縦装置をすべて外し、これまでの研究結果に基づいて魂魄回路と直結した電極つき兜を作り上げたのだが、結局、それは動くことはなかったという。  だが、この現象は人騎一体の操縦により、機体の即答性や感知能力を上昇させる代わりに、受けた損傷が自身の体に(じか)に伝わるなど反動も大きく、更には、精神が魂魄回路に取り込まれる危険性を(はら)んでいるとも云われている。  由来はどうあれ演算装置でしかないと考えられている機械が、何故、人間の精神と鉄甲騎の体を結びつけてしまうのか……その根本原因は、未だ不明である。  中には、『すべての共鳴現象は迷信である』と、乱暴に斬り捨ててしまう操縦士や研究者も居るようだ。特に、この現象が飛空船では発生した事例がないこともまた、その根拠とされている。  そして、今回の事例は更に特殊と云える。  イバンの言葉通り、本来、この現象は操縦士が陥るもので、これまで、鉄甲騎に()ける機関士が機体と共鳴を起こす例など、存在していないのだ。
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