その男ゼットス

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 ゼットスはおろか遠くで見ていたはずの手下すら気付かないうちに出現した黒い[影]は、心身ともに傷だらけの首領に優しく声をかける。 「……見ていたよ。ヘオズズがどこからともなく現れた巨人と戦い、善戦しつつも結果的に破壊されたのには驚いた」 「そこだよ、あんたさんが売りつけたヘオズズが、簡単に負けるとは思わなかったぞ!……どういうことだ、おい!」  ゼットスは感情に任せて跳び掛かるも、[影]は長衣を大きく翻し、哀れな首領を翻弄(ほんろう)しつつ身を(かわ)す。  まるで実体のない幻をすり抜けたように、ゼットスは無様にも石の床を転げ回る。 「()けんじゃねぇ!」  そう叫びつつ立ち上がり、再び襲いかかろうとしたゼットスだが、その動きが止まる。 「…………」  ゼットスの周囲を、いつの間にか四人の黒覆面が取り囲み、首筋に短剣を突き付けていたのだ。これもやはり、気配を感じさせなかった。  本来ならば、首領をお救いしなければならない手下もまた、敵の素早さに圧倒され、動けなかった。その場から逃げ出すことも出来なかったのだ。  大驚失色(たいきょうしっしょく)――  動きを封じられ、冷や汗を流すことしか許されなくとも、ゼットスは怯まなかった。 「見ていたのなら、なんで助けてくれなかったんだよ!?」     
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