その男ゼットス

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「それに、ヘオズズの敗北そのものは、この敗戦の決定的原因ではないはずだよ?……危なげな部分が相当見受けられるものの、先程述べた通り、あの巨人の少女が鎧を纏い、まさかの逆転劇を見せなければ、君たちは(から)くも勝利を収めていたのだ」 「辛くも、は余計だ!」 「事実じゃないか……勝利したとしても、あの有様では……  現に君もドルトフ閣下もその戦力の殆どを失い、ダーマスル駐在官による王城の占拠も失敗、あのままでは、ウーゴ砦と街の両方を制圧していたところで、いずれウライバ本軍に鎮圧されるのが目に見えている……  せっかく我々が、君たちに貴重な鉄甲騎であるヘオズズと、自信作の時限式爆弾を格安で売り渡し、その上、ドルトフ将軍の情報まで提供したのに、すべてが水の泡ではないか……」  [影]はそう言いながら、ゼットスが自棄(やけ)を起こして散らかした茶器を自分で拾い集め、布で拭きながら、汚れた敷物の上に置かれた座卓へと戻す。 「いかんなぁ、乱暴に扱っては……結構良い茶器であるのに」  そう呟きながら、[影]が小型の炉に小さな焔石を一つ入れ、火をつけた燐寸(マッチ)を放ると、赤黒い石はその火を吸い、真っ赤な光を放つ。 「喉が渇いた……茶を一服、頂いてもよろしいかな?」  いつの間にか握られていた瓢箪(ひょうたん)型の薬罐(やかん)を炉に乗せ、湯が沸騰(ふっとう)したところで黒い塊を削り入れる。     
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