77人が本棚に入れています
本棚に追加
「それに、ヘオズズの敗北そのものは、この敗戦の決定的原因ではないはずだよ?……危なげな部分が相当見受けられるものの、先程述べた通り、あの巨人の少女が鎧を纏い、まさかの逆転劇を見せなければ、君たちは辛くも勝利を収めていたのだ」
「辛くも、は余計だ!」
「事実じゃないか……勝利したとしても、あの有様では……
現に君もドルトフ閣下もその戦力の殆どを失い、ダーマスル駐在官による王城の占拠も失敗、あのままでは、ウーゴ砦と街の両方を制圧していたところで、いずれウライバ本軍に鎮圧されるのが目に見えている……
せっかく我々が、君たちに貴重な鉄甲騎であるヘオズズと、自信作の時限式爆弾を格安で売り渡し、その上、ドルトフ将軍の情報まで提供したのに、すべてが水の泡ではないか……」
[影]はそう言いながら、ゼットスが自棄を起こして散らかした茶器を自分で拾い集め、布で拭きながら、汚れた敷物の上に置かれた座卓へと戻す。
「いかんなぁ、乱暴に扱っては……結構良い茶器であるのに」
そう呟きながら、[影]が小型の炉に小さな焔石を一つ入れ、火をつけた燐寸を放ると、赤黒い石はその火を吸い、真っ赤な光を放つ。
「喉が渇いた……茶を一服、頂いてもよろしいかな?」
いつの間にか握られていた瓢箪型の薬罐を炉に乗せ、湯が沸騰したところで黒い塊を削り入れる。
最初のコメントを投稿しよう!