その男ゼットス

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「人のものを勝手に……それは俺さんの宝物だぞ!」 「この香りはやはりウイゲルの鳳凰茶であるな……馳走になる代わりに、西方でも愛されている高級茶に合う茶請けを進呈するゆえ、落ち着いて話をしようではないか……」  [影]は座卓の前にゆっくりと腰を下ろす。その動きは一見無防備であるが、隙はない。 「俺さんは、茶菓子は食わねぇ主義なんだ」  そう言いながらも、ゼットスは開いていた座卓にどっかと座り、対面となる[影]を睨み付けるが、 「(ほこり)が菓子に掛かるではないか! がさつ者め……」  [影]が始めて声を荒げる。  これまたいつの間にか皿に盛られたものは、丸い、小麦粉と砕いた堅果(ナッツ)を織り交ぜた手作り焼き菓子のようだ。  影はすぐに平常心を取り戻したのか、まるで何事もなかったかのごとく、茶をゼットスに勧める。 「元々は君の茶だ……遠慮せずに、飲みたまえ」  [影]が茶を注いだ茶器を、ゼットスは躊躇(ちゅうちょ)なく手に取り、いつものように香りを確かめてから軽く(すす)る。特に用心はしていない。何かを仕掛けるなら、先ほどのように気配もなく忍び寄ればよい。 「……菓子も試してみるとよい」 「だから、茶菓子は食わねぇとさっきから……」     
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