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この世の災厄そのものが形を成したとしか思えない存在……大木のような尾を振り回し建物を薙ぎ払い、両手両足の鋭い爪で人々を引き裂いた[龍]が、他の犠牲者同様小さな少年をひと飲みにしてくれようと、巨大な角を持つ顔を近づけ、何人をかみ砕いたであろう顎門を大きく開き、迫る。
――ダメだ 死ぬ!!
少年はそう思った。
誰もがそう思うことだろう。
だが、[龍]は少年の悲鳴に今更思惑うのか、それともより恐怖を与えるためか、はたまた人を食い飽きただけなのか、その動きを止めた。
暫くの間、少年と[龍]は互いを正面から見ていた。
おそらくはわずかな間だったのだろうが、少年にとっては[長い一瞬]となった。
再び時が――そして龍が動いた。背中の[影]が急かすような言葉を投げたのだ。
瞬間――それこそ少年が死を覚悟する暇もなく不意に体が浮かび上がった。誰かが持ち上げ、年のわりには小さな体躯を、路地裏に向けて思い切り投げ飛ばしたのだ。
――父さん!?
地面に倒れ転がる直前、少年は見た。
少年に向け、必死に何かを叫ぶ父を……
そして少年は認識した。父が自分を庇ったことを……
後に少年は知った。父は[龍]に喰われたことを……
更に少年は感じた。自分の危機は、去っていないことを……
怪物の、狂気に支配された眼は再び、そして確実に少年を捕らえていた。[龍]の背に乗る[影]も、少年を喰らってしまえと煽り立てる。
――今度こそ、もうだめだ!!
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