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歴戦の戦士が操る巨人は、名工と謳われた、少年の父が修理したものだ。決して負けるわけがない。事実、振るわれる剛の剣は[龍]の鱗を傷つけ、重厚な鎧による体当たりは[龍]の巨体を吹き飛ばし、その戦意を挫く。
[龍]を執拗に攻め、追い詰める巨人の猛攻に、[影]どもは恐れおののき、人々は戦意を取り戻す。
だが、少年は気付いていた。その巨人には、ある大事なものが欠けていたことを。
背中を預かる〈機関士〉がいない――
戦士が父に漏らしていた言葉を少年が思い出したとき、巨人は地に膝を付く。[龍]の尾による一撃を受けた瞬間、優勢だったはずのそれが、バランスを崩し、左腕をもがれ、蒸気を噴き出し、まるで血のごとく油を流し続けたのだ。
[龍]が、そして[影]どもが勢いを取り戻し、殺戮の続きが始まった。
それでも巨人は諦めなかった。
再び立ち上がり、果敢に戦った。
鎧が砕けても、首が落ちても……それでも巨人は戦ったのだ。
自らの後ろに、守るべき者がいる限り……
戦士の執念か、巨人の剣が[龍]の左目を突いたのを、少年は見た。
不意に終わりは訪れた。。
巨人の猛攻に目を潰され[龍]が音を上げたのか、それとも影達が殺戮に飽きたのか、気が付くと、すべての驚異は街から去っていた。
少年の視界に街はなかった。
目の前にあるものは、[影]と[龍]によって焼かれ、破壊され尽くした瓦礫の山と、殺され尽くした死体の山……
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