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思えば配属したての頃から妙に生真面目で、度重なる質問攻めに悩まされたりしたのを覚えている。物覚えがいい上にもともと出来が良いから、こちらも答えに窮するような問いをしばしば投げかけてきたりする。扱い辛い事この上ない。
それだけでは飽きたらず、最近のこいつは小姑のように何かとお説教をするようにまでなってきた。桐生にしてみればいい頭痛の種だ。
甲斐に促され、コートを着込んで部屋を出る際に、隣の給湯室にたむろしている事務員の女性達が声を潜めて話すのが聞こえた。好ましい内容でないことは予測できたが、皮肉なことに桐生の常人よりも高性能な聴覚は、彼女達のそうした陰口も余すところなく拾ってしまうのだった。
「まあったくねえ…新しく出来たネットポリスってのはよっぽどヒマなのかしら。あの刑事さん、いっつもここのヴァーチャルルームに篭りっきりじゃない」
「単に仕事回ってこないだけなんじゃないの。元軍人さんだっけ?肉体労働の方が似合ってそうだもんね」
給湯室に女性達の笑い声が響く。悲しいことだが、彼女達の考察は少なからず当たっていた。
桐生慎也が警視庁ネットポリスに配属になったのは、丁度部署が前身のハイテク犯罪捜査室から名称変更となって、規模が拡大され始めた頃であった。
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