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雅也の言うことには理があった。彼の意見は正論だ。しかしらそんなことでは割り切れない思いが2人にはあった。
『もう議論している時間はない。輸送機の燃料も限界が近い。そうだろう?春絵さん。』
『…はい。』
彼女は重そうに口を開けた。
『帰還分の燃料を差し引いて、作戦空域近くに留まれるのは後…1時間……です。』
急かしたくなかった。早まったことをしてほしくなかった。しかし彼女も軍人だ。私事よりも優先しなくてはいけないことがある。その義務感のみが彼女に口を開かせていた。
『もうぐずぐずしている時間はない。やるよ。』
これ以上の議論は無用とばかりに雅也は飛び出った。
『ちょっ!雅也!!どうすんのさ東夜!!』
東夜は悩んだ。たがそれは一瞬の事だった。
「行くぞベジタブル2。フィッシュ2の思いを無駄にするな。」
『!?…了解。』
文句を言いたい気持ちを抑えこんで頷いた。何故ならば1番腸が煮えくり返っているのは東夜本人だからだ。付き合いがそれなりに長い故、それが痛いほどわかった。
「全く。僕らしくもない。」
独り言が漏れた。2人からの罵詈雑言を避けるために通信は切ってある。
「こんな脳筋なこと、普段ならやらないんだけどな。」
これも彼のせいなのだろう。全く腹立たしい。そんな思いとは裏腹に、彼の顔は綻んでいた。
「入店音確認。僕を見つけたか…。なら盛大に歓迎しようじゃないか。」
フィッシュタイプには通常の操縦桿に加えて電子キーボードが備えられている。ハッキングや、プログラミングが必要な武器のために使うものだ。
「まずは僕に群がってくれないとね。秋刀魚魚雷、2番から5番までを炸薬から音響へ変更。」
電子キーボードは質量を持った映像。押しだ感触はある。しかし平らな板を叩いているようなものなので、押し間違いには気をつけなくてはならない。
「発射。」
4匹の秋刀魚が空を泳ぐ。それから3秒後、辺りに爆音が鳴り響いた。
「あははは!釣れた釣れた!」
ゲストには聴覚がある。それは過去の記録から判明していることだ。雅也はそれを利用した。そして音響魚雷に反応して、無数の敵が彼の所へと殺到してきていた。表示されているレーダーが真っ赤になるくらいに。
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