夢想の囚人

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「そうか、おい、蒼月(あおつき)。お前はこれ読んだか?」 原稿用紙を手にした男がソファに座ってる男、蒼月了(あおつきりょう)へ話しかけた。 「読んだよ。なんてったって浅黄貞一に原稿用紙をあげたのは僕だからね。完成を楽しみに待ってたんだ。中々面白かったと僕は思うんだけど、紅露、君はどうだい?」 蒼月は脚を組み替え、コーヒーを持たない片手で髪をかきあげた。 「ふざけてるとしか言いようがない。内容もそうだが、登場人物の名前が俺たちの名前と同じなんて馬鹿にしてるとしか思えない」 紅露滿(こうろみつる)は原稿用紙を机に投げ、忌々しそうに言った。 「フフ、いいじゃないか。紅露、君はこの『夢想探偵』の主人公なんだぜ」 「何が主人公だ。『探偵』なんて言ってるが、ただの変人じゃないか。そういう蒼月は殺人犯だったな。それもとびっきり狂った」 紅露は椅子の背もたれに思いっきりもたれかかり、背伸びをするようにして蒼月を見た。 「ハハ、そうだったな。それに恋人はあの金宮瑞季(かねみやみずき)先生だ。あの人の事は尊敬してはいるが、もう七十だろ。僕の母より歳上だ」 蒼月は言った。     
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