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夢想の囚人
「『夢想探偵』?なんだこのふざけた小説は?」
陽の傾き始めた時分、『控室』と書かれた札が掛かった部屋では男が三人集まっている。一人はソファに身を委ね淹れたばかりのコーヒーを片手にその長い脚を組み、リラックスした様子である。一人は原稿用紙のそう多くはない束を手に憮然とした表情で自分の椅子に座ってる。この男が、先程文句を垂れた男で、彼の持つ原稿用紙の束が『無想探偵』と呼ばれる小説である。あと一人は、その椅子に座る男の側で男に向かって困ったような表情を向けて立っている。
「これは浅黄貞一が書いたもので……」立っている男が言った。
「そんなのは読めば分かる。俺が言ってるのはどうしてこれを俺に読ませたのかということだ」
怒ったような口調だが、これは彼のいつもの調子でこのときも別段怒っているわけではなかった。しかし、この立っている男、関戸隆太はこの施設に勤め始めてまだ一年も経っておらず、この口調に慣れきれなく心中を察せず、戸惑うことが多い。
「浅黄さんが僕に渡してきたんですよ。それでどうしていいかわからず、というよりちょっと興味深かったんです」
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