研修ときどき雨模様

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 ちなみに、ゲームのほうには僕は参加できなかった。  なぜなら、そのゲームはスマホによって「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「どうした」という五つの情報について内容を集め、それを繋げておかしな文章にして楽しむ、というものだったからだ。  そして、僕はそこで名前が出るほど、クラスに仲のいい友人はおらず、特に自分に向けて笑いが飛んでくることもなかった。  そんな何が面白いのかさっぱり理解できない謎なゲームが進行する中、僕は文庫本に意識を移して過ごしたのだった。  4時間のバス移動というものは、意外ときついものだった。去年の修学旅行では6時間の移動だったがそのうちほとんどを寝て過ごしていたためにそれほど疲れなかったが、今回は肩や腰にすごい負担が生じた。  それから車酔いして大変だった。はきそうなのをぐっとこらえて、それでも文庫本を読み続けるのだから、やはり僕はどこかおかしいのかもしれない。  そして、ようやく吸うことのできた新鮮な空気を僕はめいっぱい肺に入れようとして……、胃からすっぱいものがこみあげてくるのを感じた。  空気は、動物臭のするものだった。それもかなりきつい。  口にまで這い上がってきたすっぱいものを、僕は慌てて胃に戻す。  そう、ここはモンキーパークだった。それを失念していた僕は、あろうことか、4時間40数名が乗り続けたバスの空気より臭い空気を、車酔いで吐きそうな中、胸いっぱいに吸ったのだ。  しばらくその吐き気と戦っているうちに、一人、二人とクラスメイト達は移動を始めた。  今日一つ目のプログラム、大学教授の講演会の会場へと向かうのだ。 「大丈夫?目が完全に死んでるけど」 「……ああ。問題ない……うっ」  遅刻犯秋丸が声をかけてきた。そのことに思考を費やしたために再び吐きそうになった僕に向けて、秋丸が気づかいの声をかける。 「大丈夫?やっぱり調子わるいんでしょ?」 「いや、大丈夫だ。問題ない。ただの車酔いだしな」  僕のその言葉を聞いて、秋丸はやれやれと言わんばかりに首を振り、そしてクスクスと笑い始める。眉間にしわを寄せて不快そうにしていた僕の顔を視認してか、彼女が答え合わせだ、というように自慢げに話し始める。
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