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「よお、相変わらず一人で弁当か」
「そういうお前だって一人だろ?」
皮肉ったっぷりなその言葉に言い返すが、のれんに腕押し、現実に打ちのめされるようなことはなく、それどころかカラカラと軽快に笑い始める。
「あったり前だろう?俺が誰かと一緒にいるのをお前は一度でも見たのか?」
「いや、見てはいないけど。何せクラスが違うんだ。偶然目撃してこなかった、なんてことがあるかもしれないと思ったんだよ」
ははっ、と腰に手を当てて笑う永田を見ていると、こっちまで馬鹿らしくなってくる。
僕らの間には、こんな言葉は必要ない、とそう思わされる。痛快に。
「まあ、僕は仕方なく一人でいるわけだし、君とは少し違う気もするけどな」
「そんな細かいことを気にすんなよ。はげるぞ?」
痛いところをついてきた。最近、自分の髪が薄い気がしてならない。高校生から将来の髪を気にする羽目になる人が、いったいどれほどいるのだろう。ものすごく不幸な気がしてならない。
現状維持の方法はわかっているのだ。勉強中、難しい問題になった時に髪を弄ぶ癖が僕にはある。それを直しさえすれば、少なくとも髪のために一日三食モズクを食べる食習慣からは解放されるはず。少なくとも。
とは言っても、最近モズクのねっとりとした舌ざわりが癖になりつつあるのだが。
「ま、さっさと飯を食おうぜ。それに、俺はどうせ一人でさみしい飯を食ってるだろうお前の気を紛らせようと思ってきたんだよ」
悪びれることもなくそう言ったけれど、きっと今思いついたことだろう。永田は、非常に口がうまいやつだと思う。他者に何かをうまく伝える話術。それは僕が、昔手に入れようとしてあがいていたものだ。
最も、自分には無理だと悟って、すぐにやめたけれど。
それに永田の場合、時に毒舌が混じるのが恐ろしい。それもさらっと、事も無げに。
ここ最近でも、僕は永田の毒舌を何度もこの身に受けている。最後は確か、……いや、やめておこう。正直、思い出したくもない。
「おーい、何かたまってんだ」
視界に手が移り、ひらひらとそれは揺れる。手の先の顔は、しまった、という後悔と、とって張り付けた笑顔が混ざったような、少し胡散臭いと思わせる表情をしていた。
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