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「それにしても変な研修だよな」
僕が弁当を食べ始めると、永田は突然そう切り出した。さっきまで早く食べ始めないのかとせかしていたのは誰だったか。
どこが、とそう聞く僕に、いや、と永田は返す。
「これって“課題探求”の一環だろ。にしては、課題を見つけるのが難しそうだなって」
「そうか?そこまでじゃないと思うけどな」
「昨日の事前指導で話があっただろ。日常のちょっとしたことから不思議を見つけ出すことのできる目を育てることがこの研修、そして課題探求という授業の意義だ、って」
ああ、と僕はその話の内容を思い出す。確かにそんなことを言っていたような気がする。
「この研修に、少なくとも日常があるとは思えない。そんななかで、いったいどんな“日常のちょっとした不思議”なんてものを探せっていうんだろうな。やっぱり、ただ歳をとっただけの人間の言葉は違うな」
少し言い過ぎな気もするが、おおむね永田の言葉が正しいように思え、僕は無言のうちに首を縦に振った。
と、鼻先を冷たいものがつついた、と思った瞬間に、ぽつぽつという音とともに、冷たい雨が落ち始める。
やべ、と慌てて弁当をしまい始めるが、雨はそんな僕たちをあざ笑うかのように勢いを増し、結局、僕と永田が屋根のある場所に避難した時点で、制服を含めた持ち物すべてから水が滴っていた。
「ああーあ、こりゃひどい」
僕が必死になって、リュックサックの中にある本などの濡らしたくないものを取り出している横で、永田がぼやく。ひどいのは荷物のぬれ具合か、それともいまだ勢いの衰えることのない豪雨の方か。
僕たちが避難したのは、弁当を食べていた高台をさらに上へ登って行った先にある展望台だ。
幸いにして、そこには誰もおらず、永田は躊躇なく学生服を脱いで絞っていた。
ぼたぼたと勢いよく落ちる水滴の量がひどい。
そして、リュックサックの中身も壊滅的打撃を受けていた。
撥水性のある生地で作られたリュックサックではあったが、さすがの雨量には耐えられなかったようで、すでに内側に水がしみ込んでしまっていて、本はぬれてしまっていた。
幸いだったのは、ぬれたのは僕個人の持ち物の方で、図書館で借りた文庫本の方は無事だったということだろうか。それでも、雨でしわくちゃになってしまった本を読む気は起きない。
僕は両手を合わせてその本の自然な形での乾燥を願った。
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