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荷物をベンチに並べて乾燥させる準備ができ、僕と永田は手持ち無沙汰にただ振り続ける雨とその景色を眺める。
展望台の屋根にあたった水滴は、低く響き、この空間の静寂を教えてくる。だが、悪くない居心地だと思った。
静かで、余計なしゃべり声のしない、落ち着いた空間。そして周りの自然。ほかの人物は、少しは気心の知れた相手。普段の教室の喧騒に比べれば、この環境は僕の心に安らぎを与えた。
少なくとも、この研修中ずっと感じていた疎外感を吹き飛ばすほどには。
クシュン、とくしゃみをする音が聞こえた。バッと、その人がいないはずの方向へ視線をやると、そこには藤野が立っていた。
そう、生命化学部のもう一人の一年生である藤野が。
振り向いた僕たちの顔を見やって、おや、という顔をした藤野だったが、すぐにその表情を引っ込めて、普段のうざいくらいに能天気な笑みを浮かべる。
……腹が立つ。
どうにも、この神聖な静寂が侵されたという気がして、不快でならなかった。けれど、それは濡れネズミと化した藤野の姿をみて吹き飛んだ。
とりあえず藤野の方へタオルを投げる。黄緑色のくすんだタオルだ。小学生のころからの、使い古したタオル。
藤野はそれをお手玉でもするようにおっとっと、と危なげにキャッチして頭を吹き始める。
はは、と横からまた笑い声が響いた。
「結局このメンツか。呪われでもしてるのか、それとも残酷な真実、とでも言いたいのか……」
よくわからないことをつぶやき始める永田をよそに、僕は藤野にどうしてこんなところにいるのかを訪ねる。
曰く、弁当を掻き込み、一番だと意気揚々に行動を開始したタイミングで雨が降り始めて、慌てて走っていたら、迷子になった、らしい。
とんでもない方向音痴だと思う。少なくとも、僕と永田は、弁当を食べるために、人が来なさそうな場所を捜し歩いていてであったのだ。要は、ここは入口の正反対の場所、このモンキーセンターの一番端なのだ。藤野がどこから走り始めたのかは知らないが、ふつうはこんな場所にはたどりつかないだろう。
それに、ここまでの道は、完全に荒れた獣道の類だった。一応の舗装のあとらしきものはうかがえたけれど、草は生え放題、ツタは伸び放題で、およそ、まよって入る場所ではないと思うのだ。
そんな場所を捜し歩いてきた僕たちとは違って。
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