青春の墓場へようこそ

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「この漸化式っていうのがいまいち分からないんですけど」  そんな声に、僕は頭をおさえる。  この十和田高校生命化学部には問題がある。一つや二つではなく、少なくとも両手で数え切れないほどだ。  例えば、この部活の活動内容が化学および生物に関する研究をすることである、ということだ。しかし、僕と同じ一年生の藤野宗司(ふじのそうし)は、先輩の川北遊星(かわきたゆうせい)に数学の説明をしてもらっている。教師用の前の大きな黒板を埋め尽くすように書かれた数式に、僕はもう一度頭をひねる。  ……どうしてこんな部活に入ってしまったのだろう。  部員は全部で五人。そしてその全ては男子。昨年までは少なくとも一人は女子がいたが、それももう途絶えてしまっている。  二年生は二人。一方は大学受験に命をかけている川北遊星だ。部活中も暇さえあれば参考書を開き、主に数学の勉強。問題は受験に関係ない教科はほとんど勉強しないこと、それから大半の学校の宿題(特に数学と化学)を提出しないし、そもそも行おうともしない。本人曰く、レベルが低くて行うだけ時間の無駄らしい。  まあ、僕自身も中学校の授業はレベルが低くて退屈だったためによく寝ていたのであまり悪くは言えない。しかし、提出物くらいはきちんと出していた。それに、この学校の数学はかなりペースが速くて難しいと思うのだけど……。  もう一人の二年生の榊原楓(さかきばらかえで)は、とにかく声が小さい。先生に話すときには、いつも「は?」とか「声が小さくて全く聞こえんわ」と半ば口癖のように連呼されている。  そのひょろりとした見た目からも、自己主張が苦手そうな様子がうかがえるが、ここ数ヶ月見ていて、単に顧問と話すのが嫌なだけであるように思える。  二年生が個性豊かすぎるせいで、一年生にも変な人たちが集まるのだろうか。  まあ、僕もそこに含まれるのかもしれないけれど……。  
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