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前……というと、あの時のことだろうか。
部活に入部して1週間ぐらいたった日のこと。寝不足で目の下にクマを作り、ふらふらしていた僕は、半ば週間になりつつあった藤野への軽いあしらいをしているところだったと思う。
その時、何か笑いのツボに入ったのだ。その中身がどうであったかはほとんど覚えていないのだけど。
それで笑い声をあげようとした途端、突然吐き気が襲ってきたのだ。原因は寝不足だと思うが、とにかく、吐くのをこらえようと一点を見つめてじっと固まっていたのだ。
そして、偶然(?)その視線の先に藤野の顔があった。
そのタイミングで藤野は突然堰を切ったようにして笑い始めたのだ。おかげで、口までせりあがってきたすっぱいものを飲み込む必要が生じた。
そんな嫌な思い出である。いや、正直言って思い出したくもなかったのだけれど……
「あの時もかとゆー、そんな変な顔しててね。ほんっとに面白かったんだから」
意気揚々とそんなことを言ってくる。正直、意味が分からない。
それに、今回は別に僕が吐き気を感じていたわけでもない。それなのに面白い顔とは……
「大丈夫だよ。普段のかとゆーの顔は別に変な顔にはなってないからね。それに、僕だって、傷つけようとして人の顔を見て笑うわけじゃないしさ。……まあ、僕はそうやって感情をはっきり見える表情のかとゆーの方が好きだよ」
見透かされたようだ、とそう思った。
そして、僕が自分の顔が高揚するのを感じて必死にそれを抑えている間に、藤野はそう朗らかに笑って展望台からかけていった。
雨はとっくに上がっていて、空にはうっすらと虹がかかっていた。
「虹って光が分散して起こるらしいな。青系統の光の方が屈折しやすくて、それぞれ別の場所で屈折して俺らの目の方にやってきた光を、俺らは見てるってわけだ。要は、光が見える場所と、実際にやってきてる位置はそれぞれの波長の光によって違うってことだ。つまり、隣同士で同じ虹を見ていたとしても、その光は同じじゃなくて、別の場所から来てるってわけだ……なんて、友人や恋人と虹を見てる人間に言ったらすごい冷めた空気になるんだろうな」
むくりと静かに起き上がった永田が、突然そんなことを言った。
「まあ、友人と呼べる人間がいないからこそ言える言葉か?」
いや、かなりひどい自虐みたいだ。
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