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「まあいいや、じゃ、俺もそろそろ行くわ」
そう言うことだけ言って永田もさっさと来た道を引き返していく。
先ほどまでにぎやかだった展望台の下は、今や静寂に包まれていた。その静けさを邪魔しようというようにか、それとも雨上がりのうれしさを表現してか、遠くから鳥たちのさえずりが聞こえ始める。
ぬかるんだ地面にところどころできた水たまりの光の反射がやけに眩しく見えた。
それに目を細めながら、僕も一歩を踏み出し、その展望を後にした。後には、僕たちが来る前と同じ、寂れた薄黄色の展望台と、寂しげにたたずむベンチが残されていた。
さて、雨も上がり、僕ら生徒は、自由行動という名のもとに、それぞれが気の赴くままにモンキーパークを見て回った。『ある程度の集団』で。
もちろん、僕は一人で見て回った。別に複数人でいることは嫌いじゃないが、それでも自分のペースで見て回ることができないというのは面倒だった。加えて、特に誰かと特別親しくしているわけでもないから、誘う相手もいなかった。
よって、単独行動となったわけだが、それはそれで面白かった。
微妙な生息地の違いで鳴く声が違うサルの鳴き声を実際にスピーカーで聞いたり、求愛のダンスという奇妙な踊りを始めたサル……テナガザルというべきだろうか……を見たりした。
園内を一通り見て回り、いくつかの展示の前にいた大学生に話を聞いた。中にはへぇ、と驚くこともあったが、それでも僕の頭の中には、“日常の些細な疑問”という言葉がまるでこすっても落ちない油汚れのごとく残り続けた。
些細な疑問、日常の、などとブツブツ言いながら歩いていた僕は、傍から見ればひどく怪しい人物だっただろう。
実際に、かなりの人数から珍妙なものを見る目で見られるのを感じた。中には、秋丸(遅刻犯)や永田に大丈夫かと声をかけられることもあった。大丈夫とだけ返事をして、真っ赤になった耳を隠すように、足早にその場から逃走したけれど。
それ以外、特に目新しいこともなく、研修は終わりへ向かった。
帰りのバスの中で、クラスメイトほぼ全員が寝ていたのは、ある意味傑作と表現してもいい出来事だったと思う。それこそ、つい心の中で、小学生かよ、とツッコミを入れてしまうほどには。
こうして十和田高校入学後初の一大行事は終了した。
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