青春の墓場へようこそ

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 一年生は藤野宗司と永田栄一(ながたえいいち)、それから僕、加藤祐馬(かとうゆうま)の三人だ。藤野宗司は先ほどから見ていて分かるように、とにかく数学のことで頭が一杯な人間だ。いつも川北先輩に数学の説明を頼んでいる。  彼がなぜこの部活を選んだかが謎だ。数学研究部があるわけだから、そちらに入れば良かったと思うのに、兼部すらせずにこの部活一本だ。  彼の問題は過度なスキンシップを行ってくることと、他人の領域に無駄に踏み込んでくることだ。例えば、部活中に少しでも気を抜くと、彼は僕の尻を触ってくる。もちろん他の部員にも同様だ。そして、他人の持ち物を勝手に触るし、誰かが勉強していると横からぐいぐいと顔をねじ込んできては一緒に読もうとする。  はじめは勉強熱心な人ぐらいの認識だったが、どうやら悪性のかまってちゃんだったらしい。一人でいるのに耐えられない、と言うタイプのようだ。僕とちょうど対角に位置する存在だ。  にこにこと取り繕ったような笑顔を振りまき、浅く広い人間関係を築き上げている。その点で言えば、この部活で一番社交的な性格と言える存在だ。まあ、かなりうっとうしいというのが他の部員一同の見解なのだが。  と、じっと見つめながら考え事をしていたせいか、藤野が嬉々とした表情でこちらへ向かってきた。 「かとゆー、どうしたの。そんなにじっと見つめられるとかなり恥ずかしいよ」  背筋が凍りつくような甘い声でそう言った。かわいらしい見た目かもう少し背が低い、またはそもそも女子であればまだ許せるのだが、あいにく自分より背が高い男に言われてもただ吐き気がするだけだ。僕にそっちの気はない。 「別に。ただどんな研究をしたものかなーって考えてただけだ。じっと見つめてた、なんて表現はやめてくれ」  藤野は額に人差し指を当てて、軽く首をかしげた。だからなんでそうも違和感だらけの動作をするのだろうか。それに、僕のことをそんな変なあだ名で呼ばないでほしい。せめてもう少しだけまともなものにはならないのだろうか? 「そうかなぁ。かとゆー、確かに僕のことをじっと見てたと思うけどなぁ」  そんな僕の思いなど全く理解せずに、藤野はさきほどとほとんど変わらない言葉を繰り返す。 「はぁー。ま、取りあえずヨードホルム反応でも試しに実験してみるか」  ため息を一つこぼし、僕は実験準備を始めるために立ち上がる。
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