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「失礼します」
薬品庫のカギを借りに、僕は隣の実験準備室に入る。実験準備室には普通ではありえないことに、先生の姿が見えなかった。まあ、この部屋では普通でもなんでもない良くあることなのだけれど。危険な実験をすることもある部活には必ず教師が常駐していないといけないという決まりなのに、大丈夫だろうか。
といっても、次の定期テストの問題がパソコンに映し出された状況であることはかなりの問題ではないだろうか。まあ、僕たち一年生は教科に化学はないから問題ないだろうが、二年生の先輩方二人はまさにこのあと、このテストを受けるだろうに……。
とにかく、生徒用の薬品庫のカギを取り、僕は準備室を後にした。
まずはヨウ素をはかり、ビーカーへと入れる。それからヨウ化カリウムだ。前回使用したときに蓋についていたヨウ素で手に色がついてしまったので、今回は手袋をしながら薬品をはかり取っていく。
「んー、なかなか溶けないなぁ」
ヨウ素の結晶がなかなか溶けず、僕はガラス棒で溶液をぐるぐるとかき混ぜる。結晶の破片の周りから溶液の色が薄茶色になっていく。
「さて、と」
溶液の準備ができたので、僕は次の操作に取り掛かる。
作ったヨウ素ヨウ化カリウム水溶液を試験管三つにはかり取って、そこにメタノール、エタノール、アセトンをそれぞれ加える。そしてガスバーナーで加熱しておいた50℃のお湯に試験管をいれ、しばらく放置する。
「ねぇ、何やってるの?」
先輩の講義が終わったのか、藤野が僕に顔を近づけてくる。
「……はぁ、近いんだけど」
相変わらずうっとうしい。僕は手を振り払いながらため息まじりにつぶやく。あれ?そういえばさっきから先輩の声が全くしなかったけど、藤野は今まで何をしてたのだろう?
「で、で?かとゆーは何やってるの?さっきから見てたけどいまいちわからなくてさぁ」
ああ、さっきからやけに静かだと思ったら、藤野が僕の実験をずっとしゃべらず見ていたからか。
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