青春の墓場へようこそ

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「あぁ、ヨードホルム反応だよ」 「ヨードホルムって、あのアルコール検出反応ってやつ?」 「そうだけど。ってそれを知ってるのに、なんでさっきまで見ていながら僕が何やってるかわからなかったんだよ?」 「うん、最初はヨウ素デンプン反応だと思ってたからね。そこでエタノールとかアセトンとかが出てきたから、思考が止まっちゃった」  てへっ、と顔の横に手を当てながら僕をじっと見つめてくる。さっき見られて恥ずかしいって言っていたのはどこの誰だよ。と心の中で悪態をつきながら、僕は藤野のことをにらみ返す。 「あの、恥ずかしいんだけど……」  頬を赤らめながら、藤野がごにょごにょとつぶやく。恥ずかしいんだったら人のことをじっと見つめるな、と言いたいところだが、これ以上藤野にかかわるのも面倒なので、とりあえず適当に流しておく。 「で、お前は何かすることはないのかよ。いつまでもうだうだしてると、熊岸(くまぎし)の頭に角が生えるぞ」 「あー、それは怖いねぇ。じゃあ、かとゆーが実験しているのを横でちゃんと見てるよ」  ……ん?どうしてそんな話になったのだろうか。なにか実験をするか、それとも教科書や他校の研究テーマ集をみる、もしくはパソコンで研究テーマを探すかの三択しかなかったはずだ。それが僕の実験をしっかり見とくって、藤野の思考回路はどうなっているのだろうか?  それに、さっきも見られて恥ずかしいと言っておきながら、僕のことはしっかり見るとか、度胸があるといえばいいのか、それとも単にばかなのか……。さすがに僕も、見ています宣言されてはいそうですかと実験に移れるほど肝はすわっていないのだけれど。 「藤野。できれば他のことをしていてほしいんだけど。正直見られてる中実験をするのはきついし、それに見ていて楽しいような実験じゃないから」 「わかった。じゃあ、かげからこっそり見ておくよ」  ……もうだめだ。これ以上会話を続けると、さらに変な方向に話がそれてしまう。 「……榊原先輩の実験のほうがよっぽど楽しいと思うけど?」  榊原先輩のほうは、先ほどからニンヒドリン反応を行っている。アミノ酸検出反応であるニンヒドリン反応は、ニンヒドリン溶液にアミノ酸を加えて加熱するだけの簡単な実験だ。確か加熱しているうちに紫色になっていくのだったと思う。少なくとも向こうのほうが色が出るし、見ていて面白いだろうに……。
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