青春の墓場へようこそ

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気を取り直して、僕は実験操作を続けていく。アセトンを加えたものはすでに黄色い沈殿が見える。簡単な実験だということはわかっていたが、成功の喜びで僕は小さくガッツポーズをした。  さて、次のエタノールは……これも成功だ。アセトンの場合より少し少ないが、それでも黄色の沈殿がはっきり見えるほどできている。よし、じゃあ最後はメタノール……っと、これは、調べた通り反応なしか。 「実験成功……か」  無事に実験が終わって一息。椅子に座って三本の試験管を眺める。だいぶ化学班の一員らしくなってきたと思う。入って一ヶ月ほどは、ひたすら化学の勉強だった。それから器具の扱いに慣れるために、中和滴定や雨水のpH測定、フェーリング反応などをしてきた。今回はその一環でヨードホルム反応というわけだが、マイクロピペットの操作も上手くなり、実験全体の流れを意識して進めることができるようになったから、かなり早く実験が終わった。はじめの頃、一日もしくは数日にわたって実験をしていた頃がうそのようだ。 「さて、……」  写真をとり、実験ノートに今日の結果を記入し終えたため、片付けに入った。  とりあえずできた沈殿ごと溶液を袋に入れてゴミ箱へ。試験管やビーカーは洗って、油性ペンで書いた『アセトン』や『エタノール』といった文字をアセトンを浸けたキッチンペーパーで拭き取っていく。それから使った薬品の片付けをして…… 「ん~んん~んん~♪」  戻った先には、再び藤野のがいた。なにやらやけにご機嫌だった。  ……藤野の機嫌がものすごく良い。それも鼻歌を歌うほどに。  とてつもない悪寒が背筋を這う感覚に、僕は慌てて藤野を止めようとする。 「カチッ、カチッ」  と、石を打ち付けるような音が響いた。見ると、藤野が右手に持ったチャッカマンを流しのステンレス枠の部分に近づけて、火を点けようとしていた。 ――そこは確か、さっき僕が試験管の文字を消すためにアセトンを使う際、勢い余ってこぼした場所。 「ふj――」 ボッ!!!  勢いよく炎の花が咲いた。そして、藤野と、そのそばにいた僕に向かって、広がる火の壁が襲いかかった。  慌ててズボンにまとわりついた火を叩き払う。ばたばたと手を動かし、必死になって火を払う。とにかく全力で手足を動かし続けて……
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