2人が本棚に入れています
本棚に追加
無事に火が消え、残ったのは静寂だった。僕の心臓はバクバクと脈打ち、汗が額を流れ落ちる。
「いや~、すごかったねぇ~」
藤野ののんきな声が乾いた空間に木霊した。
グリン、と僕は不自然な程に首をひねり、藤野を見る。
「おまえ、さすがに危機感がなさ過ぎだろ。ほんと、冗談でも何でもなく、死ぬかと思ったんだよ」
そう、藤野の声に危機感がほとんど無かったのは、彼はほとんど炎を浴びていなかったからだ。視界の隅ではあったがそれは間違いない。
その代わりに僕が燃えかけた。……まあ、たいした被害はなかったのだけれど。
「…………はあ」
怒鳴りたい気持ちを必死になだめる。こんなことは無駄だ。何の意味もない。ただ雰囲気を悪くするだけ。
あと一年以上この部に通うことになるんだ。こんなことで禍根を残すなんて馬鹿らしい。と、そんなことを考えていたときだった。
「おい、何をしでかした」
部室に響いたいかつい声に、空気が凍った。
僕と藤野がそろって声がするほうへ顔を向けると……そこには目を見開き、眉間に深いしわを刻ませた顧問熊岸が立っていた。
「もう一度聞くぞ……藤野、何をしでかした?」
藤野、と犯人を断定してしまっているというのが恐ろしい。少なくとも先ほど準備室に入った時には先生はいなかったのだ。ということは、僕の大声か、もしくはその後のドタバタ音を聞いたからだろうが、そんなことではやらかした人間の確定などできやしない。藤野が今までの短い期間に、どれほどのことをしでかしてきたかがわかるというものだ。
いや、そんなことはどうでもいい。それよりも、このままだとまた僕にまで怒りの矛先が向けられかねない。
そんな考えをよそに、僕たちのほうへ近づいてきた熊岸が藤野の頭をどつく。
「さて、分かってるんだろうな……」
あまりの形相に、僕はなすすべなく立ち尽くした。
最初のコメントを投稿しよう!