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そんな水戸支店の要、木村さんが広島へ行ってしまうことになったのだ。
正直私はショックでその日は動揺していつも通り冷静に業務をこなせなかった。
私の仕事は経理業務で、本来木村さんには直接関わらない仕事だが、私の作った帳票を隅々までチェックし、わからないことはしっかり私に質問する。自分より倍以上年上の人から物事を聞かれるというのは正直驚いた。でも、こういった探究熱心なところが木村さんの持ち味で、見習わなければならない所だと胸に響いた。
なんといっても木村さんは笑顔がとっても素敵である。笑ったときにできる目尻のしわが木村さんの温かみを表しているような気がしてならない。優しい人は、なんとなく仕草やオーラで分かってしまう。「この人の下でずっと働いていたい」という気持ちが日に日に強くなるばかりであった。そんなときの転勤、と言われればしばらく固まってしまう私の気持ちも分かるだろう。
別れというのは、今まで何度も経験してきた。
何度もあったはずなのに、私は毎回慣れない。一度さよならしてしまうと、もう大抵会えないことが分かっているから・・。それを考えると尚更悲しい。
今日は木村さんの送迎会。いつも通り明るく振舞おう。だって栄転なのだから。御めでたい日なのだから。いつも通りの私で、いつも通りの飲み会だと思って皆で楽しく飲み明かそう。決して涙を見せないよう、私は心に誓ったが、花束を注文している際にもうじわじわと悲しみがこみ上げてきた。
やっぱり私は、今日も泣いてしまうかもしれない。
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